電源をどうにかする

 車載PCを実現するにあたり、電源の作り方が問題になる。 カー用品店でDC-ACコンバータを買ってくる手もあるが、ソリューションとして美しくない。 もともとPC用の電源がかなりの容積を占め、さらにDC-ACコンバータもデカイ物だ。 DC→AC→DC という変換も無駄な感じがする。

 最近の小型PCブームで、ACアダプタによる給電としたPCケースが増えている。ACアダプタは12V5Aぐらいのものだ。 これなら車載に向いているかもしれない。 「電源のみ」 ってのも売っているらしいが、ケースと同じような値段なので、ACアダプタを採用したケースを買ったほうがお得だ。 スイッチ類やスリムタイプドライブのマウントなども流用できるかもしれない。

 とゆーことで買ってきたのがコレ↓
 http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20030125/etc_cubid2699.html参照

 中を見ると、いい感じの大きさの電源モジュールが筐体前部に配置されている。



 ACアダプタには 12V 4.5A と書いてある。 単純に計算して54Wぐらいだ。

小型PCケースの電源を試す

 これを実験用電源に繋いで、動作確認してみた。12Vを突っ込めば、ACアダプタを繋げた時と同じ状態になる。 クルマのバッテリは12Vといわれているが、実は13.8Vぐらいだ。 12Vと言うのは 1セル 2.3V を四捨五入してから6を掛けている値だ。 さらにオルタネータは高めの電圧を発電する。 なので実験用電源の電圧を上げてみた。すると12V出力には入力電圧と同じ電圧が出てくる。 これはPCに直接突っ込めない。なんかしらの減圧回路が必要だ。 さらに電圧を上げると13Vぐらいで電源が切れた。保護回路が働いたようだ。 12V出力に減圧回路をはさんでも、保護回路が邪魔で使えないことになる。 入力側に減圧回路をはさめばよさそうだが、それにはコストがかかる。 この位置では5Vや3.3Vなど電流分も通るため、5A流せる減圧回路が必要になるからだ。 安上がりに改造するためには保護回路の手前に減圧回路をはさむ必要がある。

減圧回路

 保護回路の話は置いといて、減圧回路の話から。減圧回路には2種類ある。ひとつは DC-DC コンバータ。 高速にスイッチをON/OFFして所望の電圧を作り出す。 高効率だが、コスト高い。 もうひとつはレギュレータ。不要な電圧は抵抗で落とす。安いが効率が悪く、 減圧した分の電力は消費され、発熱する。 たとえば13.8Vを12Vに減圧し、そのとき1Aの電流が流れていたとしよう。 DC-DCコンバータなら、入力側の電流は1A未満になるだろう。 しかし、レギュレータでは1Aの電流が流れており、1.8V×1A=1.8W の電力を消費し、熱に変換されてしまう。

 車載で1.8Wなんて電球に比べたら屁みたいなものなので、ここはレギュレータを使おう。 というか貧乏なんで、レギュレータを使うことにする。 昔はレギュレータといえば2Vの電圧差が無いと使えなかった。 12Vが必要であれば、14V以上の入力電圧が必要だ。車のバッテリでは難しい。 しかし最近は低ドロップタイプの製品があり、0.6V差あれば安定した電圧が確保できる。 12Vが必要なら、12.6Vあればよいのだ。 オルタネータが発電していれば余裕のある数字だと思う。多分。


LM2940CT-12

電源監視を騙す

改造前の電源のブロック図としてはこんな感じだろう。



電源監視ICの手前、かつ流れる電流が少ないところにレギュレータを入れなければならないので、 入れるところはひとつしかない。こんな感じ。



 回路を推測するため、電源のボードに乗っているチップの型番をググってみたら電源監視ICが見つかった。 TPS3510 というチップがそれだ。 データシートがココにある。

 そのピンアサインとボードの実装を見比べ、レギュレータを入れる場所を推測した。 そんで、パターンカットして適当につなげてみた。


パターンカット

 んで14Vぐらい突っ込んでもOKになった。その状態でWIN98とかRedHat7.3とかインストールできたので、おおむね問題ないだろう。 しかし、ノイズだらけの車の電源で、安定動作するか不安だ。ヘッドライト付けたら電圧降下に追いつかなくて落ちるとか、そうならないことを祈る。



シャットダウン対策をどうにかする

 クルマ特有の問題として、エンジンキーを切ったときにどうするか考えなければならない。クルマのバッテリーのことを考えると、常時電源は使用できない。 しかし、アクセサリー電源を使うと動作中のPCの電源をいきなり切ってしまう事になり、PCによろしくない。 最近のハードディスクは不良セクタを作ったりしないようだが、それでも論理的矛盾が生じるのでよろしくない。 前回の車載PCではジャーナル ファイルシステムを用いる事により解決しようとしたが、それでもやはり心理的負担があり、よろしくない。 そこで今回はディレイリレーを用いる事にした。

 PCにはUPS制御ソフトのようなものを動かしておき、アクセサリー電源が切れたらシャットダウン処理に入る。 ディレイリレーは、アクセサリー電源が切れた数十秒後にリレーを切る。 これで、PCが動作中でも何も考えずにエンジンキーを切る事が出来る。 しかし、車載向けに売られているディレイリレーは高い。高いので自作する。
   


 回路は単純だ。というか単純に作った。信頼性は低いかもしれない。

 アクセサリー電源が入ると、コンデンサが充電される。僅かの充電でトランジスタにも電流が流れるようになり、リレーをONにする。 ちなみに左側の抵抗は、充電電流を制限するものである。無いと、初期充電電流が大きすぎてヒューズが飛ぶかもしれない。抵抗値は適当だ。
 アクセサリー電源が切られると、右側の抵抗とトランジスタを通じてコンデンサの放電が始まる。 放電中はリレーのON状態を保持する。放電時間は実測で20秒ぐらいだ。 CとRの値も適当だ。家に転がっていた部品を使った。 3300μF というのは異常にデカイかもしれない。 普通なら タイマIC の 555 を使うとかするが、半田付けの箇所が増えるんでヤメた。 リレーに流れる電流がスパっと切れず、徐々に減っていくのもあまりよろしくないかもしれない。 しかし、ディスクリートで作ったゼ! というのが今回のポイントでもある。

 アクセサリー電源を監視する仕組みも必要だ。 通常、UPSはCOMポートの制御線に電源ステータスを送る。 今回作るのはUPSではないが、ソフトから見たらUPSのように働く。 なのでACCの状態をCOMポートに入れてやれば良いだろう。 COMポートすなわちRS-232Cの信号は、本来であれば ±12V を使う。しかし、結構いい加減な入力でも動く。 オープンだったら負と認識するし、正と認識させるには単に12Vを突っ込めばいい。 正負の論理が逆だと困るが、それはUPS制御ソフトで設定可能だ。 要するにACCをCOMポートの制御線のどこかに突っ込めば終わりだ。 念のため、抵抗を通してCOMポートのCTSに接続する。 抵抗値はこれまた適当に 4.7kΩを使った。上の回路と部品を共通化するため、1kΩでも問題ないだろう。

回路図のようなもの ACC --- R --- CTR
 COMポートは普通のコネクタのCOM1と、基板上にピンだけのCOM2がある。普通のコネクタは別の用途で使うかもしれないので、 電源監視の線はCOM2に接続した。D-Sub 9pinのコネクタよりも、ピンヘッダへのコネクタのほうが安いし。

 ハードができたら次はソフトだ。シャットダウンソフトを調達する必要がある。 UPSメーカーのダウンロードページなどを見たが、信号線をどう解釈するのかを解析するのが面倒だ。 作ったほうが早い。ということで作った。
 CreateFile で COM2 を開き、GetCommModemStatus で信号線を調べ、ExitWindowsEx で電源を切るだけのプログラムである。 GUIは存在しない。 もし終了させたいときは [CTRL]+[ALT]+[DEL] から終了させなければならないが、 通常は終了する必要のないプログラムなので問題ない。 簡単なプログラムなのでライブラリが一切不要だ。 コマンドラインを解析するスタートアップルーチンさえ不要だ。 エントリポイントを変え、/opt:nowin98 (WinAlignしない) を付けることで 2.5KBytes のプログラムになった。

実行ファイル
ソース

 2.5KBytes だと、通常のファイルシステム上では1クラスタしか消費しない。管理の単位が 4KBytes だからだ。 1クラスタしか消費しないということはショートカットと同じだ。なのでボクはこのプログラムをスタートアップフォルダに直接放り込んだ。
 尚、ExitWindowsEx の引数の仕様がNT系と95系では違うため、このプログラムでは 95/98/Me でしかシャットダウンできない。また、使用ポートはCOM2固定である。


実運用試験

 エンジン始動→手動で電源ON→ちょっと走行→エンジンキーOFF→シャットダウン。これは問題なかった。 ヘッドライトのON/OFFぐらいの電源変動も問題ない。
 しかし、1点だけ問題がある。ACCに戻し、PCを起動したままでエンジンを再始動するとシャットダウンしてしまう。 セルモーターの電流消費量は並ではない。その上、そのとき電源供給するのはバッテリーだけだ。

 バッテリーを2個積まないと、この問題は回避できないかも。もしくは、もっと高級な電源回路にする。 どっちがお得だろうか。小型のバッテリーは2000円〜3000円ぐらいだろう。一方、この安物電源は1万円である。 バッテリー2個のほうが安く実現できるだろう。しかし、スペースを食ってしまう問題がある。 うー、面倒なのでこのままだ。



2004/06/11 実運用試験つづき

 普段あんまし使ってなかったりするんだが、こないだレインボーブリッジで渋滞にハマったときに使ってみた。 いつも思うのだが、渋滞表示を分岐の直上に表示するのはやめてくれ。 もうちょっと前に表示してくれないと、渋滞を認知したときにはエスケープできない。 今回も、「あっ!」と思ったときは戻れないところまで走っていて悔しい思いをした。

 台場〜一ノ橋45分とか書いてあるので車載PCを使ってみた。 RD-XS41で焼いたキティズパラダイスのDVDを再生してみる。 夜間でヘッドライト付けてエアコンも付けていたが問題なかった。 途中でヘッドライトの電力がもったいないような気がしたので消した。まだ上り坂のときだった。 徐々に進んで下りになり、向こう側の橋脚にたどり着いた頃、異変が起きた。 エアコンのコンプレッサー起動とともにリセットしてしまったのだ。

 子供(3才)が「キティちゃん・キティちゃん・・・」と愚図りだす。困った。起動に時間が掛かる。 ウルセー餓鬼。親の顔が見てみたいぜ(オレか?)。と思いつつDVDプレイヤーを再度立ち上げて再生する。 しかしコンプレッサーが回るとリセットしてしまう。

 エアコン止めると暑いので子供が愚図るのはあきらめて浜崎橋まで我慢した。

 走行中は大丈夫だろうと思い、汐留のグネグネを運転しながらDVDの再生を始めてみた。 しかし走行中にも関わらず、リセット現象がでてしまう。 再生されかけたキティが消えると再び餓鬼が愚図りだす。 走行していれば窓を開ければなんとかなるので今度はエアコンをあきらめた。

とりあえず今回は

とゆーよーな感じかなぁと思っている。